彗星のごとく表れた18歳の周囲が騒がしい。 5日に行われたプレミア・リーグ7節のサンダーランド戦で2GOALをあげ、見事マンチェスター・ユナイテッドが逆転勝利をあげる立役者となったアドナン・ヤヌザイがその人だ。 ダービーでマンチェスター・シティに完敗を喫するなど開幕から全く調子の上がらないユナイテッドにあって、偉大なるサー・アレックス・ファーガソンの後任として今季から指揮を執るデイヴィッド・モイーズ監督に対しては早くも逆風の嵐が吹き荒れるが、そんな最中指揮官期待の新鋭が放った光りはまさに希望の灯とでも呼べそうな輝きだった。 日本人的視点では、ただでさえモイーズに重宝されてるとは言い難い香川真司の出番が、ポジションが重なるこのヤヌザイの台頭でますます減ってしまうのではないか!?という危惧は否が応にも脳裏に過ぎるところではあるが、そんな贔屓目を差し引いたとしてもヤヌザイが素晴らしい素質を持った若者であることに疑いの余地はなさそうだ。 ではそんなヤヌザイの周囲がなぜ騒がしいのか?? 騒がれるのは才あるゆえ…だが、ここまで大きな話題になるのは彼の持つ出自が特異なためでもある。ベルギー国籍を持つヤヌザイだがそのルーツはバルカン半島のコソヴォにある。コソヴォ出身のアルバニア人の両親の元ベルギーにて生まれ、2011年にユナイテッドへとやってきて現在に至る。 と、ここまで触れた中でもベルギー、コソヴォ、アルバニアの代表になれる資格があることが分かる。 いったいヤヌザイはどこの代表を選ぶのだろう??という興味が人々の関心を掻き立てているというわけである。祖父母にはトルコとセルビアの血も混ざっているというが、コソヴォのアルバニア人とセルビアの関係を考慮すると現実的にセルビア代表の線はまずないといっていいだろう。 また、現在でもセルビア共和国の一部である(はずの)コソヴォは、独自の代表チームを持つものの国際的に承認されるには至っておらず、従ってW杯やEUROに参加することはできない。 ちなみに、イングランド代表を率いるロイ・ホジソン監督が「18歳以降、その国に最低5年間継続居住すれば代表資格がとれる」として、5年後の23歳での代表入りの可能性に言及したというが、実際は「18歳以前に最低5年間その国で教育を受けること」というFIFA条項を取り違えていたらしい。。。 外国人天国のプレミアにあって、なかなかイングランド人の若手が台頭しずらくなっている昨今だけに、ついつい都合良く解釈をしてしまったようだが?仮に23歳の時点でその資格を得られるとしても、5年先というのは選手のキャリアを考えると遠すぎる。 そう考えると生まれ育ったベルギー代表入りが一番自然なようにも思えるが、本人は民族的ルーツになるアルバニアの代表入りを望んでいるともいわれる。 国際舞台での実績が皆無のアルバニア代表と比べて、ここ最近の若手選手たちの台頭とその充実ぶりを見るとベルギー代表に入るほうが、ヤヌザイのキャリアを考えてみてもかなり面白そうだと思うが、血とルーツに対する意識と感覚は我々島国の住人には窺い知れないものがあるということだろう。 このヤヌザイに限らず、ここのところ台頭するコソヴォ出身のアルバニア人選手の名がしばし耳目に入ってくる。 筆頭は1200万ユーロの移籍金で昨季バイエルン・ミュンヘンに加入したジェルダン・シャチーリだろう。とにかく層の厚い“FCハリウッド”にあってレギュラー獲得とまでは至らないが、将来を嘱望される存在といっていい。優勝した昨季CL決勝後、ピッチ内でコソヴォ国旗を掲げていた姿は記憶に新しい。 シャチーリは現在スイス代表として活躍しているが、ユーゴ内戦やコソヴォ紛争に際して移民流入が多かったためか、スイス代表にはコソヴォ出自のアルバニア人プレーヤーの名が多く見られる。 EURO2008や南アフリカW杯にも出場したヴァロン・ベーラミ(ナポリ)、同様に南アフリカW杯に出場したFWのアルベルト・ブンヤークあたりは既にお馴染みの存在といっていいだろう。 そしてブンデスで現在(14日時点)4位と好スタートを切ったボルシア・メンヒェングラートバッハでプレーするグラニト・ジャカは、スイスが優勝した2009年U17W杯で中心選手とした活躍し、現代表でも21歳の若さで⑩番を背負うなどシャチーリとともに最も期待される若手の代表格になる。 ちなみに14日にアウェーに乗り込んで行われた民族ルーツの国、アルバニアとの対戦は2人揃ってスタメン出場しシャチーリの先制GOALなどでスイスが2-1と勝利を収めている。 その数奇なる?顔合わせでアルバニア代表の一員としてとして対峙したロリック・カナ(ラツィオ)もコソヴォ出身のプレーヤーだ。PSGやオリンピック・マルセイユなど長くフランスで活躍したカナは新世紀以降のコソヴォ出身プレーヤーの代表的存在といっていい。 現在、ブンデス2部で2位と昇格圏に位置し1年でのブンデス復帰を目指すグロイター・フュルトで前線の格となる192cmの大型FWイリル・アゼミも、アルバニアU21代表に名を連ねる。 スウェーデン代表としてEURO2012に出場したエミル・バイラミ(パナシナイコス)、同じく今年初めに開催されたキングス・カップでスウェーデン代表デビューを飾ったエルトン・フェイズラフ(ユールゴーデンIF)もコソヴォ出身者だ。 こうして見ていくとそれなりのレベルの選手が結構輩出されていることがよく分かる。 面積が11000km2、人口180万人弱(もっとも多数の移民が流出してはいるが)の規模で、これだけの選手が出てくるというのは驚愕に値する。 同じく旧ユーゴスラヴィアを構成したモンテネグロが、昨今国際舞台で注目を浴びつつあるが、仮にコソヴォ出身のプレーヤーがチームを組んだとしたら、モンテネグロはおろか既にEUROやW杯出場経験のあるスロヴェニアあたりよりも充実した良いチームができそうな気さえしてくる。 隣国の“本国”アルバニアが国際舞台で全く実績がないことを考えると(選手もエリョン・ボグダニぐらいしか浮かばない)、そこにはかつて“東欧のブラジル”と形容されたユーゴスラヴィアの土壌やDNA的なものが!?多少なりとも関係、影響していたのかと思わなくもない(まぁ、この世代が実際ボールを蹴り始めたのは移り住んだ国に於いてではあるが)。 ヤヌザイがどの代表をセレクトするかは今のところ彼のみぞ知る…といったところだが、仮にヤヌザイ、ジャカ、シャチーリが並ぶ布陣がいつの日か成立するとするならば(3人とも左利きだが…)、単純になかなかに面白そうなアタック陣だと感じるものはある。※だからといってコソヴォがセルビアから独立すればいいとは思ってはいない! さあ、はたしてヤヌザイはどこを選ぶだろうか!?
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